記録・編集:WEB先案内 · 公開 2026年9月24日 · 更新

気孔は水蒸気と二酸化炭素の出入りに関わります。ここで扱う開閉の説明と、実際に測った環境の値を区別して読みます。
この記事が使う観測記録
教材データ:2026年9月24日時点の観測12,553件(6月28日〜9月24日)。この記事で使う数値は9月21日の1時間ごとの平均です。VPD(空気のかわき具合)は温度と湿度から計算した値で、葉の温度は測っていません。
葉には、小さな口がある
気孔は、葉の表面にある小さな口です。ここから二酸化炭素を取り込み、同時に水蒸気を逃がしています。植物にとって、ここは悩ましい場所です。二酸化炭素がほしければ開けたい。でも開ければ水が出ていく。気孔の話は、いつもこの天びんの話になります。
バジルは、葉の表側と裏側の両方に気孔がある植物です。Genovese系の2品種を使った実験では、気孔の密度(単位面積あたりの数)は表より裏のほうが高く、水が足りない条件では、比較した本葉の各段階で表・裏ともに密度が27〜42%増えました。気孔の長さは、有意差があった子葉・本葉の比較で9〜17%短くなりました。葉全体の気孔数や面積が同じ割合で変わったという意味ではありません。さらに、水が足りないときに強く閉じたのは表側のほうでした。出典:Drought stress triggers alterations of adaxial and abaxial stomatal development in basil leaves(PMC)
開け閉めは、水でふくらませて動かす
気孔をはさんでいるのは、2つの孔辺細胞です。筋肉はありません。動かし方は、もっと単純です。
- 細胞の中にイオンを入れる
- 濃くなった細胞に、水が入ってくる
- ふくらんで、あいだの口が開く
光が当たると、孔辺細胞は膜にあるポンプで水素イオンを外へ出します。すると細胞の内側が電気的にマイナスのほうへ傾き、カリウムイオンが入りやすくなります。閉じるときはその逆で、イオンが出ていき、水も出て、しぼみます。気孔は、水圧で動くバルブなのです。
光が当たってから気孔が開くまで
- 光が当たる
- H⁺を細胞の外へ出す
- 細胞の内側が電気的にマイナスへ傾く
- カリウムイオンなどが入る
- 浸透圧が上がり、水が入る
- 膨圧が上がり、気孔が開く
カリウムだけでは、動かない
カリウムが本当に効いているのか。シロイヌナズナで、遺伝子改変によって孔辺細胞のカリウムチャネルの働きを抑えた実験があります。結果は、光による気孔の開きが38〜45%小さくなり、孔辺細胞へのカリウムの取り込みも減りました。カリウムの出入りは、開閉のしくみに直接かかわっています。出典:Dominant Negative Guard Cell K+ Channel Mutants Reduce Inward-Rectifying K+ Currents and Light-Induced Stomatal Opening in Arabidopsis(PMC)
ただし「カリウムを足せば気孔が開く」ではありません。プラスの電気をもつカリウムイオンだけを大量に入れることはできないので、塩化物イオンや硝酸イオン、リンゴ酸、糖なども一緒に出入りして、つり合いをとっています。必要な量のカリウムが足りているなら、そこから先を決めるのは光・二酸化炭素・空気のかわき具合・ホルモンです。
だからこのお部屋では、「葉が垂れた → カリウム不足 → 肥料を足す」という近道は使いません。
窒素は、開ける側にも閉じる側にも出てくる
肥料の窒素は、硝酸イオンの形で植物に届くことがあります。シロイヌナズナでは、硝酸を運ぶNRT1.1というたんぱく質が孔辺細胞に多く見られます。その働きが失われた変異体の葉を切り離し、30 mMの硝酸カリウム溶液に浸して白色光を当てた実験では、気孔の開きが野生型の約3分の1でした。硝酸の代わりに塩化物を使うと、有意な差はありませんでした。同じ研究では、変異体で孔辺細胞への硝酸の蓄積や蒸散が減り、乾燥に耐えやすくなる結果も報告されています。これは特定の実験条件での結果で、家庭のバジルに肥料を足したときの変化を表す数値ではありません。出典:The Nitrate Transporter AtNRT1.1 (CHL1) Functions in Stomatal Opening(PMC)
一方で、窒素は閉じる側の合図にも関わります。2002年のシロイヌナズナの研究では、硝酸還元酵素の働きが低い変異体の葉の表皮を使うと、アブシシン酸による一酸化窒素の生成と気孔の閉鎖が見られませんでした。ただし、別の刺激には反応して閉じており、気孔そのものが閉じられなくなったわけではありません。出典:Nitrate reductase-mediated nitric oxide generation is required for abscisic acid-induced stomatal closure(PMC)
その後、一酸化窒素の生成が少ない別の変異体で、アブシシン酸による閉鎖がむしろ強まる結果も報告されています。「一酸化窒素がなければ必ず閉じない」と一般化せず、変異体の種類や実験条件を区別する必要があります。出典:Enhanced Abscisic Acid-Mediated Responses in nia1nia2noa1-2 Triple Mutant(PMC)
どちらもシロイヌナズナでの実験です。バジルで同じ大きさの効果が出るとは、まだ言えません。
アブシシン酸は、非常ブレーキ
アブシシン酸は、水が足りないときに増える植物ホルモンです。孔辺細胞では受け取り役から順に合図が伝わり、OST1という酵素が働いて、細胞から陰イオンを外へ出すスイッチが入ります。イオンが出れば水も出て、孔辺細胞はしぼみ、気孔が閉じます。
このホルモンが少ない植物は、ふだんから気孔をよく開けていて、気孔の通りやすさが何倍も高くなります。アブシシン酸は非常ブレーキであると同時に、ふだんの開き具合を決めるつまみでもあるのです。
ただし「空気が乾く=アブシシン酸」とは限らない
空気が乾くと気孔が閉じます。では、その合図はぜんぶアブシシン酸でしょうか。ここは注意が必要です。
シロイヌナズナ・エンドウ・トマトを使った実験では、アブシシン酸をつくれない植物でも、空気が乾いたときにはしっかり気孔を閉じました。一方でOST1が働かない植物は、空気の乾きに対して気孔をうまく閉じられませんでした。研究者は、葉から水が失われて張りがなくなることで起きる、合図をつかわない閉じ方も同時にあると考えています。出典:Merilo et al.「Stomatal VPD Response: There Is More to the Story Than ABA」Plant Physiology
つまり「空気が乾いた → アブシシン酸が増えた → 葉が垂れた」と1本道でつなぐことはできません。水そのものの動きと、合図のしくみが、重なって働いています。
9月21日の朝、このお部屋で起きていたこと
この日の記録は、そのまま教材になりました。温度・湿度・照度は各時刻から1時間分の平均です。表のVPDは、その平均温度と平均湿度から計算しています。各測定時刻のVPDを計算してから平均した値とは異なります。
| 時刻 | 温度 | 湿度 | VPD | 照度 |
|---|---|---|---|---|
| 5時 | 24.3℃ | 69.6% | 0.92 kPa | 49 lux |
| 7時 | 25.6℃ | 70.8% | 0.96 kPa | 2,788 lux |
| 8時 | 34.1℃ | 59.2% | 2.18 kPa | 36,009 lux |
| 9時 | 36.7℃ | 54.8% | 2.79 kPa | 20,784 lux |
| 11時 | 28.0℃ | 62.6% | 1.41 kPa | 9,872 lux |
9月21日の空気のかわきと明るさ
VPD(kPa・左の目盛り)照度(20,000 luxを1.0として重ねた)
朝7時から9時までのあいだに、空気のかわき具合は0.96から2.79へ、約3倍になりました。同じ時間帯に、土の湿りセンサーは93〜100%を報告しました。ただし、表示値だけで鉢全体の水分量や根が吸える水の量は確定できません。
「水がない」のと「その瞬間、間に合っていない」のは別のことです。根から葉へ水を送る速さより、葉から出ていく速さが上回る時間帯ができれば、土が湿っていても葉は張りを失います。9月21日の8〜9時にも、このしくみが関係した可能性はあります。ただし、根の吸水量・葉の蒸散量・葉の水分状態を測定していないため、原因は未確定です。温度と湿度を重ねて見る →
土のセンサー値が高いときに葉が下を向いても、理由はひとつに決められないんだ。葉の様子を見た時刻と、光・温湿度を並べて考えてみよう。
同じDLIでも、同じ結果にはならない
2026年に出たGenoveseバジルの実験が、この見方を後押しします。栽培期間の平均DLIを約17 mol/m²/日とする設計で、光の強さと日長の変え方を4通りにしました。変化させる区では8日ごとに条件を変えており、毎日のDLIを同じ値に固定した実験ではありません。このお部屋の目安帯12〜18に入る値ですが、日ごとの光の配分も区別して読む必要があります。
結果は、強さも日長も動かした区で、乾物量と光利用効率がどちらも約9%高くなりました。気孔の通りやすさはむしろ、一定の光の区のほうが約25%高いという結果でした。よく開いていたほうが育ったわけではないのです。出典:Gradual increases in light intensity and photoperiod enhance light use efficiency and dry matter in indoor basil(Frontiers in Plant Science)
論文の著者自身も、計算に使ったのは株に届いた光であって、株が吸収した光ではないと書いています。DLIは1日の合計です。その中身までは表していません。
バナナの皮と、カリウムの話
カリウムは、孔辺細胞を動かすイオンのひとつでした。では、身のまわりにどのくらいあるのでしょう。バナナを分析した研究の表では、カリウム量は試料100gあたり、果肉に約350mg、皮に約1,709mg、皮の抽出物に約2,245mgと報告されています。ただし、実験では果肉と皮を乾燥・粉砕し、皮の煮出し抽出物も凍結乾燥しています。生のバナナ100gや、家庭で作った煮出し液100gの含有量を表す数値ではありません。出典:Comparative Evaluation of the Nutritive, Mineral, and Antinutritive Composition of Musa sinensis L. (Banana) and Musa paradisiaca L. (Plantain) Fruit Compartments(PMC)
ここで止めるのが大事です。「バナナの皮を水に漬ければカリウム肥料になる」とは、この数字からは言えません。理由は3つあります。
- 数値は品種・熟し具合・生の重さか乾いた重さか・測り方で大きく変わる。
- 同じ研究では皮からカルシウム・マグネシウム・リン・鉄・窒素なども測られている。カリウムだけの材料ではない。
- 水に漬けただけでは、濃さも肥料の割合も分からない。ふやけた有機物は微生物のえさにもなる。
このお部屋のバジルには入れません。バナナは、カリウムという元素を身近に感じるための例として置いておきます。
このお部屋で測っていないもの
ここまで読むと、Ivyの記録で確かめられることと、確かめられないことがはっきりします。測っていないのは、次のものです。
- アブシシン酸の濃度
- 気孔が実際に開いていた幅、気孔の通りやすさ
- 葉の中の水の引っぱられ具合、蒸散の速さ
- 葉そのものの温度(VPDの計算には温度を使っています)
- PPFD。照度(lux)は人の目の感度に合わせた単位です。光源のスペクトルが不明なため、正確な換算はできません
だから記録からは「8〜9時に温度・湿度から求めたVPDが上がった」「土の湿りの表示値が高かった」までは言えても、「気孔が閉じた」「アブシシン酸が増えた」とは言えません。言えるところで止めておいて、次に見る時刻を決める。それがこのお部屋の読み方です。
次の観察:葉が垂れて見えた時刻をメモして、その時刻の温度・湿度・照度を重ねてみましょう。垂れはじめと、VPDが上がりはじめる時刻は、どちらが先でしょうか。
訂正(2026年9月28日):土の湿りの表示値から根が吸える水量を断定する説明と、葉が垂れた原因を確定していた説明を修正しました。吸水・蒸散の不釣り合いは未検証の可能性として扱います。バナナの成分量についても、乾燥処理した試料の数値を生の重さ・煮出し液の数値としていた説明を訂正しました。照射実験のDLIは毎日の固定値ではなく、栽培期間の平均をそろえる設計と明記しました。気孔の個数・密度・長さの区別と減少範囲も訂正しました。表のVPDが平均温湿度からの計算値であることも明記しました。NRT1.1の実験条件と、一酸化窒素の働きについて研究条件によって結果が異なることも追記しました。
実際の記録で確かめる
この写真は9月29日の葉の外観です。9月21日の気孔の開き具合を撮った写真ではなく、気孔はこの倍率では確認できません。葉の外観と気孔の測定は区別します。

まとめ:VPDは上がった。気孔が閉じたとは言えない
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 記録で確かめたこと | 9月21日の7時から9時のあいだに、温度と湿度から計算したVPDは0.96から2.79 kPaへ、約3倍になりました。同じ時間帯に、土の湿りセンサーは93〜100%を報告しました。 |
| 出典から言えること | バジルは葉の表裏どちらにも気孔があり、水が足りない条件では密度が27〜42%増え、長さが9〜17%短くなりました。孔辺細胞のカリウムチャネルの働きを抑えると、光による気孔の開きが38〜45%小さくなります(シロイヌナズナ)。空気の乾きに対する閉鎖は、アブシシン酸だけでは説明できません。DLIの平均を約17にそろえて光の配分を変えた実験では、乾物量と光利用効率が約9%高い一方、気孔の通りやすさは一定の光の区のほうが約25%高いという結果でした。 |
| 仮説のままのこと | 9月21日の8〜9時に、根からの吸水が葉からの蒸散に間に合わなかった可能性。シロイヌナズナやコムギでの結果が、バジルで同じ大きさで現れるか。 |
| 測っていないこと | アブシシン酸の濃度。気孔が実際に開いていた幅と通りやすさ。葉の中の水の引っぱられ具合と蒸散の速さ。葉そのものの温度(VPDの計算には温度を使っています)。PPFD。 |
「水がない」のと「その瞬間、間に合っていない」のは別のことです。記録から言えるのはVPDが上がったことと土の湿りの表示値までで、気孔が閉じたとは言えません。
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